西条まつりに息づく先祖の思い【後編】~だんじりの造りに込められた思い~
LOVE SAIJO 編集部 2022年11月28日
前編では、SAIJO BASEに展示されている江戸時代のだんじりの彫刻にスポットを当て、江戸時代に西条で生きた人々に思いを馳せました。
前編をまだ読んでいない方はこちらから。
▼西条まつりに息づく先祖の思い 前編 ~だんじりに彫られた江戸の粋~
https://www.lovesaijo.com/news/saijobase_danjiri01/
後編では、江戸時代と平成のだんじりの造りに焦点をあて、SAIJO BASEだからできる比較ポイントを大紹介!
時代と共に変わったところもあれば、変わらず受け継がれている伝統も。さっそく見ていきましょう!
目次(クリックして読みたい項目にジャンプ!)
1.あの有名人が担いだ⁉西条の名所が彫られた『西条だんじり』
2.アナタには違いが分かる?今と昔のだんじりの造り
3.1年の96%はバラバラ。だんじり組立の目印とは?
4.西条市内100を超える地区で受け継がれる伝統
1.あの有名人が担いだ!?西条の名所が彫られた『西条だんじり』
最後に紹介するのは『西条だんじり』。こちらは展示用に平成2年(1990年)に製作されたものです。
棟梁は金森正一。棟梁の補佐を担う助大工は中野伸治です。金森さん、中野さんは前編で紹介した新しい魚屋町だんじりの棟梁と助大工でもあります。
彫刻を担当した柴公甫さんは、SAIJO BASEの前身である『こどもの国』の木彫教室の先生で、実はSAIJO BASEの3階には柴さんと木彫教室の子どもたちで作った『こどもだんじり』も展示されています。
西条だんじりは展示用のだんじりなので実際のお祭りで運行されたことはありませんが、イベントなどで担がれたことが数回あります。なんとテレビ出演のため東京のスタジオで担がれたこともあるんです!スタジオでは大喝采だったそう!
西条だんじりの彫刻の絵柄を紹介します。
①水引幕
このマークを覚えている方はいらっしゃいますか?平成16年の合併前に使われていた旧西条市市章なんです。西の漢字を対にしたデザインだったんですね。現在の西条市市章は、山と川をデザインしています。
②手すり
石鎚山、武丈、西条陣屋と欄干橋、禎瑞の龍神社の4か所が描かれています。
武丈の彫刻には、八堂山、桜と共に橋が彫られています。「こんな橋なんてないよ」と思う人も多いでしょう。実はこれは昔の伊曽乃橋(一銭橋)です。
前編で紹介した昭和中期の川入りの写真には昔の伊曽乃橋が写っています。
③胴板(上側):七福神
正面には恵比寿と大黒天がセットで描かれています。
④胴板(下側):おとぎ話
浦島太郎、桃太郎、一寸法師、金太郎の物語が描かれています。シーンの切れ目を巻物で表しているんですね。
2.アナタには違いが分かる?今と昔のだんじりの造り
SAIJO BASEのスゴイところは、江戸時代と平成のだんじりが並んでいるところ。SAIJO BASEだからできる、昔代表の旧魚屋町だんじりと今代表の西条だんじりの造りに焦点を当て比較ポイント3つをご紹介します。
その1 屋根が違う!
屋根の横方向にたくさん並んでいる弓型の部材(垂木)に注目してください。旧魚屋町だんじりは、部材の端が横に突き出ています。一方で西条だんじりは、部材が突き出ておらず、屋根の構造が異なっていることが分かります。
こちらはだんじり全般に言えることですが、屋根の端が上向き方向に沿っているのも面白い特徴です。江戸時代に比べて平成の方が反りは大きい傾向があります。反りが大きい方が装飾的にはより勇ましいイメージがありますね。
道後温泉の屋根も似たような形をしていますが、こちらの屋根の端は下向き方向です。雨が降った時、きちんと水が流れるのはどちらか、皆さんもうお分かりですね。
その2 よく見るとこんなところも違う!
だんじりの奥行方向の長さに注目してください。江戸時代のだんじりは、平成のだんじりよりも奥行が大きいんです。旧魚屋町だんじりは奥行360cm、西条だんじりは奥行319cmと約40cmの差があり、横から見ると違いが良く分かります。(東光だんじりは奥行370cmなのでさらに大きいです)
『乳隠し』という部材の作りも少し異なります。旧魚屋町だんじりは『乳隠し』が蝶番で取り付けられ可動できるようになっていますが、西条だんじりは楔で固定されていて動きません。また、奥行方向の『乳隠し』にも注目してください。旧魚屋町だんじりは2枚に分割できるように作られていますが、西条だんじりは分割できない造りになっています。
さらに特徴的なのはかき棒です。西条だんじりは外側にもかき棒があり担げるようになっていますが、旧魚屋町だんじりには外側のかき棒はありません。『西条祭絵巻』のだんじりの絵も外側にかき棒がありませんので、昔は内側だけで担いでいたようです。
その3 内側も違います!
だんじりの内側にも注目してください。実は、旧魚屋町だんじりと西条だんじりでは、柱の数が違うんです!旧魚屋町だんじりは6本、西条だんじりは4本となっています。
かき棒にもご注目。旧魚屋町だんじりは、かき棒が②と⑤の柱、③と④の柱の間に固定できる造りになっています。一方、かき棒が外に出ている西条だんじりは、縄でかき棒を固定する造りになっているんです。
縄による補強は旧魚屋町だんじりや東光だんじりにも見られます。簡単にほどけないように綺麗に縄が結ばれているのがスゴイですね。
現在、西条市内には100を超えるだんじりがありますが、だんじりによって柱の数、外側のかき棒の有無が違います。次回の西条まつりで是非チェックしてみてください!
あまり見る機会のないだんじりの内側も紹介します。豪華な外見に反して、内側から見るととても簡素な造りをしているんです。だんじりは10~20人と少ない人数で担ぎます。できるだけ軽くなるように彫刻部分は透かし彫りの技法を使ったり、屋根も木ではなく天幕という布で作られたりと工夫されています。
3. 1年の96%はバラバラ。だんじり組立の目印とは?
SAIJO BASEに展示されているだんじりは1年中見られますが、西条まつりで運行している多くのだんじりが普段どのように保管されているか、皆さんはご存じでしょうか。
実は、多くのだんじりは、解体された状態で保管されているんです。
だんじりは、釘を使わず、楔や縄を使って組み立てる構造になっており、毎年お祭りの時期だけ組み立てられます。
組み立てを行うためには、どの部材をどの位置に配置すれば良いか目印が必要です。この目印を建築用語で符丁番付(ふちょうばんづけ)と言います。実はこの符丁番付のつけ方は一定のルールがあり、室町時代以前は方位番付、室町時代以降は回り番付などの色々な種類の目印のつけ方が普及したという歴史があるそうです。
SAIJO BASEに展示されているだんじりも、江戸時代の旧魚屋町だんじりは方位番付、平成の西条だんじりは回り番付と違いが見られます。
4.西条市内100を超える地区で受け継がれる伝統
2022年の西条まつりの後、魚屋町だんじりの解体作業を見せていただきました。
新しい魚屋町だんじりは、旧魚屋町だんじりと同じ6本柱のだんじりですが、目印のつけ方は西条だんじりと同じ回り番付です。
新しい魚屋町だんじりの棟梁 金森さんは亡くなられていますが、助大工の中野さんが今でも来てくださっていました。
すごいスピードでだんじりが解体されていきます。
ばらばらにされた部材は1つ1つ丁寧に汚れやほこりが落とされ、布で包んで箱に収められていきました。
提灯も破れや汚れをチェックしながら片づけられます。
約3時間で綺麗に解体され、だんじりは大きな箱5つに収められました。
だんじりだけではなく、みこしや太鼓台といった屋台全般が解体して保存されています。
「組み立てたままでもいいんじゃない?」と思う人もいるかもしれませんが、組み立てたままでは部材に負荷がかかりっぱなしとなり、歪みの原因にもなります。また、毎年新しく組み立てるという行為自体に、新しいもので神様をお迎えするという神事的な意味合いもあると思われます。
お正月に毎年「新しいしめ縄」で年神様をお迎えするように、お祭りで1年が始まるとも言われる西条市では毎年「新しく組み立てた屋台」で神様をお迎えして五穀豊穣のお礼を伝える。
屋台を解体するのは、昔から変わらない屋台を大切にする思いと神様への感謝の念が受け継がれている証拠ともいえるでしょう。
現在、西条市内では、100を超える地区が屋台を保有しています。それぞれの屋台ごとに組み立て方に少しずつ違いがあるそうですが、地区ごとに代々若い世代へ受け継がれ、毎年の組立・解体が行われています。
地域の交流が希薄になりつつある現代。こんなに多くの地区でそれぞれに伝統が受け継がれているのはとてもスゴイことなのではないでしょうか。
だんじりの美しい彫刻やみこしや太鼓台のキラキラと輝く立体的な刺繍で豪華絢爛ともうたわれる西条まつり。しかし、西条まつりの本当にすごいところは、西条まつりへ懸ける人々の熱い思いを江戸時代の昔から冷めることなく受け継ぎ、さらにコロナという未曽有の危機も乗り越えて次の世代へ受け継がれていっているところです。
来年の西条まつりまで待てない!という方は、是非、SAIJO BASEを訪れて、まずは先人の西条まつりへの熱い思いを感じてみてください。
▼西条秋まつりの記事は他にも!SAIJO BASE紹介記事全3回もこちらから!
【LOVE SAIJO編集部が見た!2022西条秋まつり】
https://www.lovesaijo.com/news/saijo-matsuri2022/
【SAIJO BASE】
住所:愛媛県西条市明屋敷131-2
TEL:0897-47-6063
開館時間:9:00~19:00
休館日:年末年始(12/29~1/3)/地方祭(10/15、16)
HP:https://saijobase.com/
展示コーナーは誰でも無料で見られます♪
【参考文献】
・西条市『西条市生活文化誌』(1991)
・佐藤秀之『改訂版 伊曽乃祭礼楽車考』(1979)
【協力】
・佐藤秀之様(祭礼研究者)
・魚屋町青年団の皆さん、中野伸治様(大工)