四国の特異点 山荘しらさ 標高1,400mの暮らし(1)
フロリダ 2020年11月30日
元・山荘しらさ管理人 小森隆一さんの講演会
四国山地は急峻である。中でも西日本最高峰の石鎚山(1,982m)を中心に、愛媛県と高知県の県境に沿って東西約50km以上に広がる石鎚山系には標高1,700m以上の山々が瀬戸内海から30kmほどの位置にそびえ立つ。
一般に四国には、瀬戸内海の島々や高知県沿岸から見る太平洋など南国のイメージがあるが、実は四国山地の積雪を利用したスキー場も多く、山には平地とは全く違う生活があるのだ。
このほど日本三百名山および四国百名山の一つに数えられる瓶ヶ森(1,897m)の登山道入り口近くの「山荘しらさ」を長年営んでいた小森隆一さんの講演会が、令和2年7月19日、愛媛県西条市・西条史談会の主催で行われた。
今回、その講演会のレポートを3回に渡ってお届けし、四国の山のてっぺん暮らしを紹介する。
海を守るため、山に登る
講師の小森さんは1967年、旧日本海軍の軍港として栄えた長崎県佐世保市内の小売店を営む実家に生まれる。大学生生活で自らの将来に悩む中、幼少から慣れ親しんだ海に関わる仕事をしようと決意。放浪の旅で訪れたオーストラリアでプロダイバー資格を取った後、大学を中退してダイビングインストラクターとして働く。
30代になると、今度は海と同じくらい子供の頃から興味のあった料理に携わるべく、外資系飲食業に従事し、新規店舗立ち上げなどに奔走する。しかしながら仕事に忙殺され、競争に疲弊した毎日の中で、ふと立ち止まり、もっと家族との時間を大切にしようとの思いに至る。
また、これまでダイバーとして海に触れ合ってきた中で、海がだんだん汚れていくことに心を痛めていた小森さんは、海に流れ込む川、そして川の源となる山の整備に関心を持つようになり、林業の道に進むことを決意する。
林業を経て、山荘しらさへ
林業従事者としての就業先はすぐ見つかるだろうと思っていたが、思いの外相手先の反応は鈍かった。ある県の担当者には「うちらで林業とは、リンは淋しいのリンなんです。低賃金で仕事はキツい。こんな仕事誰もしないでしょう」などと言われたが、妻の陽子さんから「誰もしない仕事ならあなたがすべき」と背中を押され、再度奮起し、高知らしく(?)面接時に宴席を用意してくれた旧本川村(現在の高知県いの町北部)に林業従事者として四国に移住することとなる。
2年間林業に従事した後、林業会社の社長から村内にある山荘しらさの経営をやらないかと勧められた小森さん。「簡単に引き受けてしまったが、一言で言うと大変だった」と笑顔交じりで振り返りながらも「素晴らしい、すごい所に住まわせてもらった」と当時に思いを馳せる。
山荘しらさは標高1,400mに位置する。西条市街からのアクセスは、高知方面へ国道194号線(そらやま街道)を走り、寒風山トンネルを抜け、瓶ヶ森方面へ進む。山をどんどん登っていくと、さらにその見晴らしの良さで、最近某大手自動車メーカーのCMのロケ地にもなったUFOライン(高知県いの町道瓶ヶ森線)に入り、瓶ヶ森登山道入口を過ぎるとほどなく姿を現す。愛媛県と高知県の県境から10mほどの高知県旧本川村の場所だ。この辺りを源流とし、川は吉野川となって紀伊水道へと流れ込む。四方35k㎡に建物はこの山荘だけである。
ここで平成18年から11年間、山の民となった生活はどんなものだったのだろうか。
次回以降詳しく紹介する。