新しい門出 〜風伯神社さん奉告祭〜
オニギリ 2024年3月18日
『いつもと同じ特別な春』
1.しめ縄と新しい門出
昨年の暮れに、風伯神社さんのしめ縄が10年ぶりに新調された。平成・令和という2つの元号をまたにかけ、お祭りで賑わう街とも、コロナ禍で寂しげな街とも時を共に過ごしてきたしめ縄は、大役を全うして新しいしめ縄にお社の梁を譲る。
新しいしめ縄づくりは、わらを集めることから始まった。およそ20人の人々が集まって一斉に縄をなうという地道な作業を繰り返して2年。地域の方々の思いが織りなされ、新しい命をふきこまれたしめ縄は、重量250キロにも及ぶ。三つ編みではない編み方が特徴であるそうだ。
今回は風伯神社さんの宮司さんと、お伊曽乃さんの元お巫女さんの御結婚という、めでたい出来事が重なった。
新しいしめ縄とともに、新しい人生を歩き出す人々と、それをお祝いする人々にとっての忘れられない1日。
今回の奉告祭を祝うお揃いの垂れ幕は、団長会で製作が決定したという。
今日の屋台の記念運行に集まった担き夫の皆さんからは、マスクで隠されることのない笑顔がこぼれ、この街の本来の活気が戻ってきたと感じる。
感染症対策のために自粛を余儀なくされた過去は、はるか昔のようだ。
長かった冬が終わり、人々の躍る心が宿ったかのように弾みながら行くだんじり。いつもと同じ特別な春が、西条の街にやってきた。
2.歴史と新時代
古き良き伝統を大切にしながら、新しく生まれ変わるのは、しめ縄だけではない。
今回取材をお受けいただいた大師町さんの屋台にもそれを感じた。この町の屋台には、100年以上の歴史があるそうだ。昨年新調された新木の人肌のようなアイボリーの色と、歴史という漆を幾重にも塗り重ねた褐色が織り成す、塗料では表現できないであろう色彩。
これまで培われた長く太い伝統という幹に、新しい時代の年輪が、これからもずっと積み重ねられていくにちがいない。
3.さながら秋の例大祭
「帰ってこれたんじゃねぇ」
路地を行く屋台と民家の間で、秋の例大祭を思わせるような会話が飛び交う。
風伯さんまでのわずか数百メートルの道のりを、何十分もかけて、一歩一歩思いを込めながら踏みしめる。
風伯さんの周りを囲む路を、屋台がぐるりと埋め尽くす。屋台が練り歩く住宅街のほうからはみ出してきそうな熱気。
「これが下前の祭りよォ!」
お城の前の城下町が「下前」の由来であるそうだ。
冬が終わったばかりの春のはじめ、風はまだ冷たいはずなのに、真夏の太陽を思わせるような担き夫のみなさんの熱い想いが、一気に秋を連れてきたようだ。
「ここからどんな景色が見えるかな?」
屋台の上に登った子どもが、水引幕の間からひょっこり顔を出す。
4.乱れ咲く屋台
「今日は何のお祭りですか?」
偶然ベンチの横に座った方から尋ねられる。
「それは見に行かな!」
会場の商業施設、屋上のフェンスから張り付くように見ていた人たちが動き出す。
「こっちの場所の方がええ写真が撮れますよ」
「カメラをこう向けたら迫力ある写真が撮れるよ」
地域の方々に支えられながら、レンズの前で繰り広げられる乱舞に、私も夢中でシャッターを切る。
5.宴のあとの帰り道
迫力満点の担きくらべと練りのあと、それぞれの屋台さんが帰路に着く。名残を惜しんで、自部落まで最短ルートで帰るらしい。
「今年は〇〇が〇周年じゃねぇ」
「例大祭以外にも出たらええねぇ」
秋の再会を誓って歩きながら、屋台と一緒にふと寄り道をしたくなる、宴のあとの帰り道。
今回取材にご協力いただいたのは、大師町屋台さんと新地屋台さん。ありがとうございました!