西条まつりに息づく先祖の思い【前編】~だんじりに彫られた江戸の粋~
LOVE SAIJO 編集部 2022年11月25日
みなさん、SAIJO BASEの展示コーナーには行きましたか?
実は、西条まつりの伝統を今に伝える、選りすぐりの名品が展示されているんです!
前回は『みこし』や『太鼓台』の金色に輝く立体的な刺繍に注目してSAIJO BASEの名品を紹介しました。
▼西条まつりに込めた先祖の思い ~金色に輝く刺繍飾り編~
https://www.lovesaijo.com/news/saijobase_sishukazari/
今回は、前編・後編の2回に分けて、美しい彫刻が特徴の『だんじり』についてご紹介。
前編では、だんじりの彫刻に注目して、SAIJO BASEに展示されている3台のだんじり内、江戸時代に作られ実際の西条まつりでも担がれていた2台のだんじりをご紹介!
今回、特別に撮影させていただいた大変貴重な江戸時代のだんじりの設計図や彫刻の下絵も大公開しちゃいます!
この記事を読めば、SAIJO BASEの展示コーナーに行きたくなってしまうことはもちろん、西条まつりがもっと好きになること間違いなし!
実寸大の下絵どおりにだんじりの彫刻が彫られています
目次(クリックして読みたい項目にジャンプ!)
1.だんじり大工・彫刻師
2.ペリー来航の年製作!『東光だんじり』の彫刻徹底解説!
3.『東光だんじり』のココに注目!
4. 超貴重!江戸時代のだんじり資料を大公開!
5.幕末~平成まで現役!現代にも受け継がれる『旧魚屋町だんじり』の彫刻
6.江戸時代の謎解きゲーム!?祖先たちもだんじり談議に花を咲かせた!
1.だんじり大工・彫刻師
だんじりの製作は、棟梁と呼ばれるだんじり大工が設計や建設の総監督となり、棟梁の元、彫刻の下絵を描く絵師、下絵に元に彫刻を彫る彫刻師、彫刻に色をつける塗師など、複数の職人さんが協力して出来上がります。
SAIJO BASEに展示されている江戸時代製作のだんじり2台(東光だんじり、旧魚屋町だんじり)の棟梁が魚屋町萬吉です(魚屋町地区に住む萬吉さんという意味)。
魚屋町萬吉は、西条藩に仕えた大工の家系で、そのルーツは1670年に徳川御三家でもある紀伊徳川家から西条へ松平頼純(徳川家康の孫、徳川吉宗の叔父にあたる人物)が藩主として来た際、一緒についてきた宮大工だったと伝えられています。
今回、現在ご活躍中のだんじり彫刻師 石水 信至さんにご協力いただき、石水家に伝わる江戸時代のだんじりに関する資料(設計図、下絵)とともにSAIJO BASEのだんじりを紹介します!
2.ペリー来航の年製作!『東光だんじり』の彫刻徹底解説!
SAIJO BASEに展示されている一番古いだんじりは『東光だんじり』です。
だんじり内部には、製作・修繕の記録や職人さんの名前などの墨書きが残っています。
東光だんじりの墨書きによると、製作されたのは嘉永6年(1853年)。ペリー来航の年。棟梁の魚屋町萬吉をはじめとして、絵師や彫刻師の名前も残っています。大正11年(1922年)の修繕記録が残っていることから、現在の姿は100年前に修繕、塗り直されたものと考えられます。100年前のものがこんなにも色鮮やかに残っているのはスゴイですよね。
中野東光地区は現在だんじりを運行していませんが、昭和中期ごろには、西条まつりのクライマックスである加茂川での川入りで、加茂川に入るだんじりの1台でもあったそうです。
実はこのだんじりは、もともと上横町地区(現在の東町一丁目)のだんじりとして製作・運行されていたものが、中野東光地区に伝わったものです。
上横町だんじりは江戸時代後期(1830年頃)に描かれたとされる『西条祭絵巻』にも描かれています。SAIJO BASEに展示されているだんじりと絵巻のイラストを比べるとたくさんの共通点が見られます。
東光だんじりの彫刻の絵柄を紹介します。現在の西条まつりで目にするだんじりの彫刻は武者絵など人を彫ったものが多いのですが、東光だんじりの彫刻には武者絵はなく、たくさんの動物が彫られています。
①支輪(しりん)彫刻:雲に雷神
煙管をくわえ、肩もみをされている親分のような雷神がいるので見つけてくださいね!
②隅障子(すましょうじ):花鳥図
ガンに向かって急降下するハヤブサの彫刻は、小学校の国語の教科書に出てきた『大造じいさんとがん』のお話を思い出しますね。
③胴板:十二支
干支の順番ではなく、『犬猿の仲』など面白い組み合わせで十二支が描かれています。
④乳隠し:魚介類と野菜
ナス、サザエ、タコ、タイ。あなたはいくつ見分けられますか?
3.『東光だんじり』のココに注目!
是非、SAIJO BASEで確認してほしい3つのポイントを紹介します!
👉ポイント1 金の煌めき
水引幕は江戸時代のものとされており、刺繍糸に本物の金を使った金糸が使われています。また、金色の塗りにも本物の金が使われており、光の加減でキラッと輝きます!
写真ではなかなかお伝えできないので、是非実物でご確認ください!
👉ポイント2 ガラスの目
動物の目にもご注目。外れてしまっているところも多いのですが、目の部分にガラスが埋め込まれているんです!
江戸時代のガラスが残っているなんて驚きですね!
👉ポイント3 継ぎ足された隅障子
よく見ると隅障子の下部に横へ割れ目が走っているのが分かります。実は割れ目から下の部分は大正時代の修繕で継ぎ足されたものなんです。
彫刻が欄干に隠れず良く見えるよう、大正時代の修繕では胴板の下にかさ上げ部分が追加されました。それに伴って、隅障子に彫刻が追加されたと考えられます。言われないと気付かないほど違和感のない継ぎ足し部分の彫刻は必見です!
4. 超貴重!江戸時代のだんじり資料を大公開!
東光だんじりの貴重な資料も3つの観点で紹介します。
1.江戸時代の設計図
江戸時代に製作された際のだんじりの設計図が残っています。だんじりを真上から見た図と真横から見た図ですね。こんな平面図を元に立体的なだんじりができてしまうのが私には信じられませんでした!
2.彫刻師によるアレンジ
タイの右側は破損してしまっているのですが、下絵によるとキュウリが彫られていたようです。
下絵と彫刻が全く同じというわけではなく、タイのお腹側の鱗がなかったりと、彫刻師によってアレンジされている部分があることが分かります。
彫刻師による面白いアレンジがこちら。農家の風景の中にネズミと馬を描き、干支の子と午を表していますが、彫刻と下絵をよく見比べてみてください。彫刻では米俵の向きが変更され、縁起の良い『宝珠』の図柄が追加されているんです。彫刻師の遊び心が見えますね!
3.魚の図柄は江戸時代末期の流行!?
実は東光だんじりは、元々、魚屋町萬吉が地元魚屋町地区のだんじりとして作ったものだと言われているんです。魚屋町地区はその名の通り、魚屋が多かった地域。そう聞くとぴったりの図柄ですね。
しかも、江戸時代末期、魚の図柄は流行でもあったようで、葛飾北斎や歌川広重などの有名な絵師による魚を題材にした作品もたくさん残っています。
魚づくし・鯵(あじ)、車鰕(くるまえび) 1)
東海道五十三次で有名な浮世絵師 歌川広重による「魚づくし」シリーズの1枚
石水家に伝わる資料の中に大変興味深い本が1冊あります。それが『魚貝略画式』。初版は1802年とも言われる魚介類の絵本です。
石水家に伝わる『魚貝略画式』
この本の絵師である鍬形蕙斎(くわがたけいさい)は、現在はあまり知られていませんが、江戸時代の人気絵師です。『略画式』と呼ばれる簡略化、デフォルメ化した絵が大ヒットし、動物、人物、草花など様々な題材の『略画式』が発売されました。
アメリカのメトロポリタン美術館所蔵 鍬形蕙斎『鳥獣略画式』より (2
現在の漫画にも通じるかわいいイラストですよね
鍬形蕙斎は、葛飾北斎をはじめとした多くの絵師に影響を与えたと考えられていますが、魚屋町萬吉も影響を受けた一人だったのではないでしょうか。
魚屋町萬吉が趣向を凝らして考えた魚の図柄ですが、魚屋町の人に「魚は毎日の仕事でもう見飽きている」と却下されてしまった結果、上横町地区のだんじりになったという逸話です。
5.幕末~平成まで現役!現代にも受け継がれる『旧魚屋町だんじり』の彫刻
SAIJO BASEに展示されているもう1台の江戸時代のだんじりは、『旧魚屋町だんじり』です。東光だんじりの約10年後、同じく棟梁 魚屋町萬吉によって作られており、東光だんじりとほぼ同形式の兄弟だんじりと言えます。
だんじりに残る墨書きによると製作は文久2年(1862年)。この翌年に京都では新撰組が結成されており、江戸時代末期、幕末真っ只中の時代です。
なんとこの旧魚屋町だんじりは平成4年(1992年)まで実際に西条まつりで運行していたものなんです。たくさんの修繕記録が残されていますが、修繕を行いながらも、新撰組の時代のものが平成の時代まで現役で使われていたと思うとスゴイことですよね。
平成5年(1993年)からは新しいだんじりを製作し、魚屋町地区は現在でも西条祭りでの運行を続けています。新魚屋町だんじりは、2階づくりの旧魚屋町だんじりから1階増えた3階のだんじりになっていますが、黒塗りや彫刻は旧魚屋町だんじりのものを受け継いでいます。
魚屋町だんじりは、『西条絵巻』にも描かれており、黒塗りは代々受け継がれているようです。
旧魚屋町だんじりの彫刻の絵柄を紹介します。東光だんじりと同じく、現在のだんじりに多い武者絵はなく、日光東照宮などの寺社建築にもみられるおめでたい図柄が散りばめられています。
①胴板:花鳥図
下絵と旧魚屋町だんじりの彫刻を比べると、鳥の顔の向きなど彫刻師によってアレンジされていることが分かります。さらに新魚屋町のだんじりとも比べると、構図は同じですが、鳥の描き方や花の種類が変わるなど違いがあるようです。
ニワトリの彫刻を比べてみると、構図はそのままでヒヨコが追加されていました。子孫繁栄への思いが感じられますね。
②隅障子:琴棋書画(きんきしょが)図
琴棋書画とは、昔の中国で教養のある人が嗜むべきとされた4つの芸事のことです。
下絵と比べてみると、下絵では白紙の部分に『寿』という字が彫られています。筆を置いている衝立に彫刻を足すアレンジも見られますね。
③乳隠し:菊水文様
菊の花から零れたしずくが川となり、その川沿いに住む人々が100歳を超える長寿であったという中国の『菊水伝説』にちなみ、日本でも古くから菊は不老長寿の象徴です。
④袖障子:松竹梅
袖障子は彫刻ではなく、板に絵が描かれています。新魚屋町だんじりでは同じ構図が蒔絵で表現されています。
さて、SAIJO BASEのガラスケース展示の中には、旧魚屋町だんじりのミニチュアがあります。実際に旧魚屋町だんじりを担いでいた方が昭和末期に製作し、寄付いただいたものだそうです。
だんじりの組み方、彫刻の細部まで作りこまれていますので、実物展示では見えない後ろ側などは是非このミニチュアでご確認ください!
6.江戸時代の謎解きゲーム!?先祖たちもだんじり談議に花を咲かせた!
旧魚屋町だんじりの彫刻の意味を知って思ったのは、すべて古代中国から伝わる古い伝承にルーツを持つ絵柄だということ。琴棋書画図や菊水文様は先に説明した通り中国から伝わったものですし、花鳥図や松竹梅もそのルーツは中国だと言われています。江戸時代に西条で生きた人々が、伝承や文化的な知識も豊富だったことが想像できますね。
また、東光だんじりの十二支の彫刻は、それぞれの場面が『犬猿の仲』などの意味を持つ絵でありながら、全体として十二支というテーマを持たせるという二重の意味を持たせる構成となっています。この二重の意味を持たせるというのは、江戸時代に流行った『見立絵』を彷彿とさせます。『見立絵』は、一見すると美人画や風景画になどに見える絵ですが、絵の中に散りばめられた複数の小物などから別のテーマを連想させるという、現代の謎解きゲームにも似たもの。
江戸時代の人々は、だんじりの彫刻から様々なストーリーを連想して楽しんでいたのかもしれませんね。
また、描き方にも江戸時代の流行の影響が見られます。
今回も展示の説明をしてくれた佐藤秀之先生によると、東光だんじりの犬の描き方は江戸中期~後期に活躍した絵師 円山応挙(まるやまおうきょ)、猿の描き方は動物画の中でも猿の絵を得意とした江戸後期の絵師 森狙仙(もりそせん)の影響が。旧魚屋町だんじりの菊水文様には、江戸中期に活躍した絵師 伊藤若冲(いとうじゃくちゅう)の影響が見られるのではないかとのこと。
今はインターネットでなんでも調べられる時代ですが、江戸時代はそうはいきません。
しかし、文化の中心ともいえる江戸や京の都といった都市から遠く離れたこの西条の地で生きた人々も、豊富な文学的知識を持ち、時代の流行を楽しみながら、自分たちのカッコいいを西条祭りのだんじりに込め、だんじりを見る側の人も、あのだんじりにはこんな思いが込められているんだろうといった、だんじり談議に花を咲かせる。SAIJO BASEのだんじりを通して、200年以上前に西条で生きた人々の姿を垣間見られた気がします。
さて、後編では、SAIJO BASEに展示されている平成に製作されただんじりにスポットを当て、SAIJO BASEだからできる江戸時代と平成のだんじりの造りの比較ポイントをご紹介します!
毎年おまつりの後に解体される屋台。そこに込められた先祖の思いとは?
魚屋町青年団の皆さんに協力いただき撮影した、だんじり解体の様子と共にお届けします!
▼西条まつりに息づく先祖の思い 後編 ~だんじりの造りに込められた思い~
https://www.lovesaijo.com/news/saijobase_danjiri02/
▼西条秋まつりの記事は他にも!
【LOVE SAIJO編集部が見た!2022西条秋まつり】
https://www.lovesaijo.com/news/saijo-matsuri2022/
【SAIJO BASE】
住所:愛媛県西条市明屋敷131-2
TEL:0897-47-6063
開館時間:9:00~19:00
休館日:年末年始(12/29~1/3)/地方祭(10/15、16)
HP:https://saijobase.com/
展示コーナーは誰でも無料で見られます♪
【出典】
1)国立文化財機構所蔵品統合検索システム(https://colbase.nich.go.jp/collection_items/tnm/A-10569-3062?locale=ja)
2)メトロポリタン美術館(https://www.metmuseum.org/art/collection/search/57655)
3)国立文化財機構所蔵品統合検索システム(https://colbase.nich.go.jp/collection_items/tnm/A-12124?locale=ja) を加工して作成
【参考文献】
・西条市『西条市生活文化誌』(1991)
・佐藤秀之『改訂版 伊曽乃祭礼楽車考』(1979)
・西条市こどもの国収蔵品台帳(2020)
・石水彫刻所様HP(http://www.saijo-horishi.jp/)
・e国宝 国立博物館所蔵 国宝・重要文化財(https://emuseum.nich.go.jp/)
【協力】
・佐藤秀之様(祭礼研究者)
・石水信至様(彫刻師)