このまちをクライミングの聖地へ。 公務員アスリートの挑戦。
Co-あきない宣言 編集部 2018年10月16日
「スポーツクライミングがどんどん盛り上がって、このまちの人たちのライフスタイルとして定着してほしいですね」
そう語るのは、松本雄太郎さん(30)。
愛媛県西条市の職員として働く松本さんは、スポーツクライミングの現役選手としての顔もあわせ持つ、いわゆる“公務員アスリート”です。
大学時代に出会ったスポーツクライミングの魅力、そして好きなことを「生業」とする生き方について、松本さんとご家族に話を聞いてみました。
そこには、えひめ国体のレガシーを活かした西条市との出会いがありました。
#1 クライミング指導も業務の一環
松本雄太郎さんは、平成30年度から愛媛県西条市の正規職員として働いています。市の職員といえば通常、配属される部署で異なる多様な業務をこなすことを要求されますが、松本さんに与えられた業務は少し違っているようです。
松本さんは、西条市が所有する「石鎚クライミングパークSAIJO」で、日中は施設の管理業務をこなし、スポーツクライミングの初心者や高齢者を対象とした講習会で指導者として活躍するほか、業務が終わると地元高校のクライミング部の指導も担っています。
#2 クライミングとの出会い
松本さんは大分県日田市の出身。元々スポーツは柔道一直線でした。しかし、県で個人三位、団体二位という成績を収めた中学時代の最後に一つの転機が訪れます。
「中学時代の団体のメンバーの中で、僕だけが柔道の強豪校じゃなく、進学校へ進んだんです。高校でも柔道部には入りましたが、あの進路を決断した時、ある意味では柔道とは決別していたのかもしれませんね。結局、高校では中学の同級生とはどんどん差がついてしまいました。」
強豪校へ入って更なる上を目指すわけではない、でも今、柔道を止めてしまったら今のチームに迷惑がかかってしまう。「クライミング」を初めて意識したのは、そんな鬱屈した高校時代でした。
高校で山岳部の活動を見て、「面白そうだな、自分にもできるかな。」と直感的に感じた松本さん。そしてその気持ちは愛媛県内の大学に進学した時に「決意」へと変わり、愛媛大学のクライミングサークルへ迷わず入会しました。また、当時は競技人口が少なく、自身の先輩にも大学から競技を始めて国体選手になった方もいたことから、松本さんの目標も自然と「国体出場」に向けられていきました。
「正直、この競技に自分が向いているとは思わなかったです。自分は手足も短いですし。」
自分と向き合い、相手と技を試し合うのが格闘技だとしたら、スポーツクライミングは自身との闘い。目の前の壁を攻略するために、指先までの全神経を研ぎ澄ませ、自身の身体能力のすべてを使い切る。相手がいなくても一人で戦うことができる、そんなスポーツクライミングの魅力に取りつかれ、どんどんのめり込んでいきました。
#3 妻との出会いと家族にとってのクライミング
大学でクライミングに熱中していた松本さんは運命的な出会いをします。妻の博美さんです。元々クライミング好きで、練習ができる場所を探していた博美さんは、松山大学在学中に、週に二回、一般向けに施設を開放していた愛媛大学に通うようになります。
こうして同じスポーツに魅せられた二人は大学卒業後に結婚。現在は、息子の圭矢ちゃん(1)と親子三人でクライミングを楽しんでいます。
「私はクライミングが大好きで、今も子育てしながら続けています。でも、夫はもっと頑張って『誰にも負けない選手』になってほしいですね。」
博美さんは、自身は趣味としてのクライミングを楽しみながら、結婚してからずっとクライミングの選手としての松本さんを支えてきました。クライミングは体重が軽い選手が有利。松本さんの体重が増え過ぎたりしないよう、もう何年も食事内容に気を配ってきました。
そして子育てしながらも、週に二回はこうして夫の職場でもある「石鎚クライミングパークSAIJO」に足を運んで自身の練習も続けています。息子の圭矢ちゃんはまだ1歳。「好きなことを一生懸命やる子になってほしい。」と思いながらも、せっかくだから両親が好きなクライミングに触れてもらおうと、いつも連れてきているとのことです。
松本さんはこれまで2回、愛媛県の代表選手として国体に出場してきましたが、博美さんはまだまだ満足してはいないそうです。選手として、もっともっと上に行ってほしいと願っているようです。
「だって、夫は今、ものすごく恵まれた環境にいるじゃないですか。いつだって練習できるし、この環境を強みにもっと強くなってほしいです。」
#4 西条市との出会い
平成29年、愛媛県で国民体育大会が開催され、「石鎚クライミングパークSAIJO」は山岳競技の会場として建設されました。西条市は、えひめ国体終了後もこの施設を有効に活用するため、スポーツクライミングの普及啓発を促進しています。
愛媛県西条市には西日本最高峰の霊峰「石鎚山」がどっしりとそびえています。そして森へと降りそそぐ雨が、大地に染み込み、恵みの「うちぬき」となって、このまちを潤します。この霊峰に抱かれた水の都に「石鎚クライミングパークSAIJO」は建設されました。
山岳競技のリハーサル大会が開催された際、初めて西条市を訪れた松本さんは、このまちの景色とこの施設に一目惚れ。「こんなすごい施設、全国でもなかなか見ることができませんよ。」と松本さん。
そして松本さんは、西条市がこの国体レガシーを有効活用すべく、競技活性化を目的に専門的知識を持った正規職員を募集していることを知りました。その時、松本さんの心は決まりました。
「このまちでクライミングと添い遂げる!」不退転の覚悟で挑戦した採用試験は見事合格。 松本さん家族の西条市での新しい暮らしが始まりました。
社会人になってからは、愛媛県宇和島市で暮らしていた松本さん。「このまちは僕の故郷の大分県にも景色が似ているし、なんだか懐かしい気持ちになります。水は豊富ですし、とにかく子育てしやすいところです。公園や子育ての支援施設も近くにありますし。」
#5 松本さんが描くこのまちの未来
「今、30歳ですし、正直なところ僕自身は、競技者としてカウントダウンに入っています。だけどこのまちで種を撒きたいと思います。」
いつの日か、自身の教え子が国体に出場したり、日本代表になるのが大きな夢のひとつ。
「クライミングは誰でも気軽に始められるし、こんなに環境に恵まれた場所はないです。子どもだけじゃなくて、会社のサークルなんかもたくさんできて、はやくこのまちがクライミングの聖地と呼ばれるように、頑張ります。趣味と仕事が一緒なんて本当に幸せです。」
松本さんの描く夢は、このまちの未来を明るく照らし始めていました。
#6 西条市とスポーツクライミング
平成30年、石鎚クライミングパークSAIJOはスポーツクライミングの競技別強化センターとしてJOC(公益財団法人日本オリンピック委員会)から認定されました。この認定はオリンピックに向けた選手強化を目的に、JOCが全国のスポーツクライミング施設の中から3施設(岩手県・鳥取県・西条市)を認定したものです。
また、東京オリンピック・パラリンピック競技大会におけるオーストリア共和国の「ホストタウン」にも登録され、相手国であるオーストリアのクライミングチーム事前合宿誘致や、同国との交流進展を図り、地域の活性化を目指しています。
#7 石鎚クライミングパークSAIJO
日本代表とオーストリア代表のデモンストレーション
〒793-0072
西条市氷見乙608番地 西条西部公園内
西条市スポーツコミュニティセンター内
電話:0897-57-9383
休場日:毎週月曜日(祝日の場合は翌日)、年末年始(12月29日から1月3日まで)開場時間:9時~22時
※大会等で上記時間外を使用する場合は、ご相談ください。
※準備・片付け時間は使用時間に含まれます。
http://www.city.saijo.ehime.jp/soshiki/sportskenko/climbingpark-gaiyo.html